(補足)FDラジエータ等直線エレメントのみで構成していないアンテナのMMANA計算の注意点 ~給電部マッチングをワイヤ定義で実現したモデル(T,γ,ω,ヘアピンマッチが含まれる。)も同様~
今回、前回のFDラジエータ形状変更による利得Gaの減少について、検証と考察を実施しました。そのまとめです。
(本題)
1. 前回記事中の訂正
「今回は、ラジエータ形状を変えています。14φ径のストレートパイプの先端に”コ”字形となる10φ径パイプを挿入する形状としました。
後の判明ですが、このラジエータ形状が利得減少の原因となりました。FDラジエータの場合、そのパイプ接合形状も注意する必要があることのようです。」
と記載しましたが、これについて、MMANAの計算上の大事な注意点について失念しておりました。その詳細は、MMANAに添付されている最終の「4 参考文書(抜粋)」を熟読してください。
これらの結論ですが、前回のFDラジエータ形状の違いによる利得Gaの違いは、MMANAの計算の都合によるものと今回判明しました。
2. FDラジエータでの検証
(1) ストレートパイプ端部を異径パイプで結合した場合(前回のFDラジエータが該当)
SEG指定0,-1で計算結果が異なるケース
① SEG:0 自動均等分割で計算
(アンテナ定義)

(アンテナ形状)

(計算)

利得GaとGhが低下している。特にGh≠0dBdとなっており正常に計算できていない。これによりRとjX計算も正しいとは言えない。
② SEG:-1 テーパリングを利用して曲折部を細かく分割指示して計算
(アンテナ定義)

(アンテナ形状)

(計算)

利得Gh=0dBdとなり正常計算と判断、したがって、他の計算部分も正常と判断できる。
(2) トロンボーン式に直線部で異径パイプと結合した場合(初回のFDモデル)
SEG指定0,-1で利得GaとGhでの計算結果が同じだったケース
① SEG:0 自動均等分割で計算
(アンテナ定義)

(アンテナ形状)

(計算)

利得Gh=0dBdとなり正常計算と判断、ところが、次のSEG:-1とは、RとjXの結果が違っている。直角に曲がる部分をテーパリングしないと正しい計算とならないと思われる。
② SEG:-1 テーパリングを利用して曲折部を細かく分割指示して計算
(アンテナ定義)

(アンテナ形状)

(計算)

利得Gh=0dBdとなり正常計算と判断、こちらのほうが正しい、RとjX計算と思われます。
3.上記からの得られたFDラジエータ方式八木アンテナにかかる結論
× 前回の【FD-Rad】50MHz用八木:8エレメント(18)1:4U-blun(3)ラジエータ水平パイプ・ストレート形状に見直し後:Ga低下現象?
https://jo3krp2.seesaa.net/article/516727253.html
の計算は全て正しい結果となっていない。
△ 当初の50MHz用八木:8エレメント・FDラジエータ利用:Uバラン・マッチング方式(1)オリジナル設計
https://jo3krp2.seesaa.net/article/516435311.html
SEG=0であるため、利得GaとF/Bは正しいが、RとjX計算については正しいとは言えない。
4 参考文書(抜粋)
Mmna.txt --------------------------------------------------------------------------
SEGに設定する値はセグメント分割の方法に関り、次のように記述します。
手動均等分割 正の値
自動均等分割 0
テーパリング 負の値または、DM1,DM2の連記
なお、セグメント、テーパリング等については「Append.Txt」を参照して下さい。
手動均等分割を行いたい場合はSEGに正の値を設定します。この場合、設定した値でワイヤは均等に分割されます。
自動均等分割を行いたい場合は0を設定します。この場合、分割幅は1/DM2λに近い値になります。
テーパリングを行いたい場合は負の値を設定します。-1を設定すると分割幅は1/DM1λ~1/DM2λの範囲でテーパリングされます。-2を設定すると始点のみテーパリングされます。-3を設定すると終点のみテーパリングされます。
-1,-2,-3以外の値を設定するとその値(絶対値)をDM1として、同様に1/DM2λまでテーパリングされます。例えば -200 を設定すると1/200λ~1/DM2λまでテーパリングされます。またDM1,DM2のように数字を2つ記述してそのワイヤだけテーパリングの開始と終了の両方を指定することもできます。例えば 600,60 と記述するとλ/600~λ/60までテーパリングされます。
DM1 テーパリング開始時の間隔(=λ/DM1)
DM2 テーパリング終了時の間隔(=λ/DM2)
SC テーパリングの変化の度合い(乗数)
EC テーパリングの端点のセグメント数
テーパリングの変化の度合いは(1より大きく3以下の値を)SCに記述します。SCは分母の値をDM1から開始し徐々に増やしていく際の乗数です(通常は2を設定します)。
-2や-3を設定して片側だけテーパリングする場合は、ワイヤの中心位置とパルス位置が一致しなくなりますので注意して下さい。通常このような設定を行うのは異径パイプを組み合わせている場合ですので、パルス位置が中心位置になくても困らないと思います。
ECはテーパリングを行う際の端点のセグメント数(DM1のセグメントの数)です。例えば2を設定すると端から2個のλ/DM1間隔のセグメントを確保します。通常この値は1でOKですが、場合によっては正常な解が得られない場合がありますので、そのような場合はECを増やしてみると良いでしょう(DBLDP.MAAを参照)。
セグメントの分割数や分割方法は主にインピーダンスの計算精度に大きく影響が出ることが知られています。特にワイヤに折れ曲がりがあるループアンテナ等ではテーパリングを指定して折れ曲がり付近のセグメント間隔のみを小さくする事により、少ないセグメント数でも計算精度を改善させる事ができます。
ワイヤに折れ曲がりがないアンテナでは均等分割を、ループ等の折れ曲がりのあるアンテナではテーパリングを指定すると良いでしょう。
Append.txt--------------------------------------------------------------------------
○セグメント、テーパリングについて
モーメント法では、ワイヤをセグメントという単位で細かく分割し、その分割した各セグメントに流れる電流を計算しますので、どのように分割するかが計算精度に大きく影響します。
ダイポールや八木等の1本の直線で構成されるエレメントの場合は、均等に10等分や20等分にしても、それほど大きな誤差は出ないとされていますが、例えばループアンテナのようにワイヤに折れ曲がりがある場合は分割幅を小さくしないと誤差が大きくなり精度が悪化します。
テーパリングというのはそれを少しでも改善しようという方法で、折れ曲がり付近(1つのワイヤの端)を細かく分割し、中央部のほうは荒くしていく方法です(すべてを細かく分割するとセグメントが増えて計算時間が増大します)。
また折れ曲がりのない1本の直線で構成されているエレメントの場合も、テーパリングを設定する事により少ないセグメント数で計算精度を確保できる場合があります。
いずれの場合でも、インピーダンスの計算精度を上げるには、セグメントの分割幅を細かくする必要がありますが、あまり短く(0.001λ以下)すると逆に計算が不安定になり、また直径とセグメント長の比が4以上あるような太いセグメントでは誤差が大きくなるとされています。
以下に代表的なアンテナのSegとDM1、DM2の設定値を示します。なおこれはあくまで一般例ですので、アンテナの形状や給電の仕方によっては更に細かく分割する必要がある場合もあります。
アンテナ種別 Seg DM1 DM2
ダイポール・八木系 0または-1 200-400 40
正方形ループ -1 200-400 40
三角形ループ -1 400-600 40
長方形ループ -1 400-600 60
ヘンテナ -1 400-600 60
(Segが0の時はDM1の値は結果に関係しません)
最適化など計算速度を優先させる必要がある場合は、DM1やDM2を上記の値より減らして計算を行いますが、その場合はどの程度の偏差があるかあらかじめ調べて、それが許容できるかどうかを確認しておくと良いでしょう。一般にこの偏差は、ゲインや指向性特性では少なく、インピーダンス(特にjX)で大きい傾向にあります。例えばあらかじめjXの偏差を調べておき、最適化の際は「任意のZ」でjXにその分の逆オフセットを設定して少ないセグメント数で最適化すると短い時間で良い結果が得られる場合があります。
計算結果について、その精度を判断する基準はありませんが、セグメントの分割数を増減させてインピーダンスが大きく変化しないかなどを調べてみることにより、ある程度推測する事はできます。また電流分布を確認することも重要です。分布が予想に反した結果になっている場合や、変化が粗いと感じる場合は分割数や分割方法を検討すると良いでしょう。
一般に2つ以上のワイヤがごく接近しているケースや、短く折れ曲がっているもの等の計算精度は悪くなると思います。
サンプルにはマッチング部分をワイヤ定義で記述してあるような、かなりクリチカルな例も含まれていますが、それらはその働きを試してみたもので、細かい寸法などは信用しないほうが無難だと思われます。
(本題)
1. 前回記事中の訂正
「今回は、ラジエータ形状を変えています。14φ径のストレートパイプの先端に”コ”字形となる10φ径パイプを挿入する形状としました。
後の判明ですが、このラジエータ形状が利得減少の原因となりました。FDラジエータの場合、そのパイプ接合形状も注意する必要があることのようです。」
と記載しましたが、これについて、MMANAの計算上の大事な注意点について失念しておりました。その詳細は、MMANAに添付されている最終の「4 参考文書(抜粋)」を熟読してください。
これらの結論ですが、前回のFDラジエータ形状の違いによる利得Gaの違いは、MMANAの計算の都合によるものと今回判明しました。
2. FDラジエータでの検証
(1) ストレートパイプ端部を異径パイプで結合した場合(前回のFDラジエータが該当)
SEG指定0,-1で計算結果が異なるケース
① SEG:0 自動均等分割で計算
(アンテナ定義)
(アンテナ形状)
(計算)
利得GaとGhが低下している。特にGh≠0dBdとなっており正常に計算できていない。これによりRとjX計算も正しいとは言えない。
② SEG:-1 テーパリングを利用して曲折部を細かく分割指示して計算
(アンテナ定義)
(アンテナ形状)
(計算)
利得Gh=0dBdとなり正常計算と判断、したがって、他の計算部分も正常と判断できる。
(2) トロンボーン式に直線部で異径パイプと結合した場合(初回のFDモデル)
SEG指定0,-1で利得GaとGhでの計算結果が同じだったケース
① SEG:0 自動均等分割で計算
(アンテナ定義)
(アンテナ形状)
(計算)
利得Gh=0dBdとなり正常計算と判断、ところが、次のSEG:-1とは、RとjXの結果が違っている。直角に曲がる部分をテーパリングしないと正しい計算とならないと思われる。
② SEG:-1 テーパリングを利用して曲折部を細かく分割指示して計算
(アンテナ定義)
(アンテナ形状)
(計算)
利得Gh=0dBdとなり正常計算と判断、こちらのほうが正しい、RとjX計算と思われます。
3.上記からの得られたFDラジエータ方式八木アンテナにかかる結論
× 前回の【FD-Rad】50MHz用八木:8エレメント(18)1:4U-blun(3)ラジエータ水平パイプ・ストレート形状に見直し後:Ga低下現象?
https://jo3krp2.seesaa.net/article/516727253.html
の計算は全て正しい結果となっていない。
△ 当初の50MHz用八木:8エレメント・FDラジエータ利用:Uバラン・マッチング方式(1)オリジナル設計
https://jo3krp2.seesaa.net/article/516435311.html
SEG=0であるため、利得GaとF/Bは正しいが、RとjX計算については正しいとは言えない。
4 参考文書(抜粋)
Mmna.txt --------------------------------------------------------------------------
SEGに設定する値はセグメント分割の方法に関り、次のように記述します。
手動均等分割 正の値
自動均等分割 0
テーパリング 負の値または、DM1,DM2の連記
なお、セグメント、テーパリング等については「Append.Txt」を参照して下さい。
手動均等分割を行いたい場合はSEGに正の値を設定します。この場合、設定した値でワイヤは均等に分割されます。
自動均等分割を行いたい場合は0を設定します。この場合、分割幅は1/DM2λに近い値になります。
テーパリングを行いたい場合は負の値を設定します。-1を設定すると分割幅は1/DM1λ~1/DM2λの範囲でテーパリングされます。-2を設定すると始点のみテーパリングされます。-3を設定すると終点のみテーパリングされます。
-1,-2,-3以外の値を設定するとその値(絶対値)をDM1として、同様に1/DM2λまでテーパリングされます。例えば -200 を設定すると1/200λ~1/DM2λまでテーパリングされます。またDM1,DM2のように数字を2つ記述してそのワイヤだけテーパリングの開始と終了の両方を指定することもできます。例えば 600,60 と記述するとλ/600~λ/60までテーパリングされます。
DM1 テーパリング開始時の間隔(=λ/DM1)
DM2 テーパリング終了時の間隔(=λ/DM2)
SC テーパリングの変化の度合い(乗数)
EC テーパリングの端点のセグメント数
テーパリングの変化の度合いは(1より大きく3以下の値を)SCに記述します。SCは分母の値をDM1から開始し徐々に増やしていく際の乗数です(通常は2を設定します)。
-2や-3を設定して片側だけテーパリングする場合は、ワイヤの中心位置とパルス位置が一致しなくなりますので注意して下さい。通常このような設定を行うのは異径パイプを組み合わせている場合ですので、パルス位置が中心位置になくても困らないと思います。
ECはテーパリングを行う際の端点のセグメント数(DM1のセグメントの数)です。例えば2を設定すると端から2個のλ/DM1間隔のセグメントを確保します。通常この値は1でOKですが、場合によっては正常な解が得られない場合がありますので、そのような場合はECを増やしてみると良いでしょう(DBLDP.MAAを参照)。
セグメントの分割数や分割方法は主にインピーダンスの計算精度に大きく影響が出ることが知られています。特にワイヤに折れ曲がりがあるループアンテナ等ではテーパリングを指定して折れ曲がり付近のセグメント間隔のみを小さくする事により、少ないセグメント数でも計算精度を改善させる事ができます。
ワイヤに折れ曲がりがないアンテナでは均等分割を、ループ等の折れ曲がりのあるアンテナではテーパリングを指定すると良いでしょう。
Append.txt--------------------------------------------------------------------------
○セグメント、テーパリングについて
モーメント法では、ワイヤをセグメントという単位で細かく分割し、その分割した各セグメントに流れる電流を計算しますので、どのように分割するかが計算精度に大きく影響します。
ダイポールや八木等の1本の直線で構成されるエレメントの場合は、均等に10等分や20等分にしても、それほど大きな誤差は出ないとされていますが、例えばループアンテナのようにワイヤに折れ曲がりがある場合は分割幅を小さくしないと誤差が大きくなり精度が悪化します。
テーパリングというのはそれを少しでも改善しようという方法で、折れ曲がり付近(1つのワイヤの端)を細かく分割し、中央部のほうは荒くしていく方法です(すべてを細かく分割するとセグメントが増えて計算時間が増大します)。
また折れ曲がりのない1本の直線で構成されているエレメントの場合も、テーパリングを設定する事により少ないセグメント数で計算精度を確保できる場合があります。
いずれの場合でも、インピーダンスの計算精度を上げるには、セグメントの分割幅を細かくする必要がありますが、あまり短く(0.001λ以下)すると逆に計算が不安定になり、また直径とセグメント長の比が4以上あるような太いセグメントでは誤差が大きくなるとされています。
以下に代表的なアンテナのSegとDM1、DM2の設定値を示します。なおこれはあくまで一般例ですので、アンテナの形状や給電の仕方によっては更に細かく分割する必要がある場合もあります。
アンテナ種別 Seg DM1 DM2
ダイポール・八木系 0または-1 200-400 40
正方形ループ -1 200-400 40
三角形ループ -1 400-600 40
長方形ループ -1 400-600 60
ヘンテナ -1 400-600 60
(Segが0の時はDM1の値は結果に関係しません)
最適化など計算速度を優先させる必要がある場合は、DM1やDM2を上記の値より減らして計算を行いますが、その場合はどの程度の偏差があるかあらかじめ調べて、それが許容できるかどうかを確認しておくと良いでしょう。一般にこの偏差は、ゲインや指向性特性では少なく、インピーダンス(特にjX)で大きい傾向にあります。例えばあらかじめjXの偏差を調べておき、最適化の際は「任意のZ」でjXにその分の逆オフセットを設定して少ないセグメント数で最適化すると短い時間で良い結果が得られる場合があります。
計算結果について、その精度を判断する基準はありませんが、セグメントの分割数を増減させてインピーダンスが大きく変化しないかなどを調べてみることにより、ある程度推測する事はできます。また電流分布を確認することも重要です。分布が予想に反した結果になっている場合や、変化が粗いと感じる場合は分割数や分割方法を検討すると良いでしょう。
一般に2つ以上のワイヤがごく接近しているケースや、短く折れ曲がっているもの等の計算精度は悪くなると思います。
サンプルにはマッチング部分をワイヤ定義で記述してあるような、かなりクリチカルな例も含まれていますが、それらはその働きを試してみたもので、細かい寸法などは信用しないほうが無難だと思われます。
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